新規事業の成功率を、一つの数字では答えられません。 事業を立ち上げた割合、投資回収に届いた企業の割合、担当者が成功したと評価した割合では、数えているものが違うからです。
この記事では、公開調査の対象・母数・成功の定義を並べ、社内の企画書で数字を使うときの読み方を解説します。自社の成功確率を当てるのではなく、何をもって成功とし、次に何を確認するかを決めるためのデータ解説です。2026年11月3日時点で原典を確認しており、すべてが2026年実施の調査という意味ではありません。
まずは:企画書で使いたい成功率を一つ選び、原典の「誰に聞いたか・何を成功としたか・いつ聞いたか」を数字の隣に書く。見つからない項目は空欄のまま確認先を残す。
1週間以内の実行案:予算を判断する人と、自社の今回の目標を一つそろえる。「発売できた」か「黒字になった」かが違うなら、使う数字も分ける。原典を確認できなければ、その率を承認の根拠にせず、自社で確かめる条件を先に決める。
新規事業の成功率は、立ち上げ・投資回収・自己評価で変わる
次の3調査は、同じ成功率の高低を比べる表ではありません。数字より先に、右側の「何の割合か」を読みましょう。
調査と時点 | 対象・母数 | 確認できる数字と意味 |
|---|---|---|
アビームコンサルティング、2018年調査・公表 | 売上規模200億円以上の企業で、直近5年間に新規事業立ち上げへ関わった経営者・推進リーダー・担当者。有効回答780件 | 新規事業を検討した企業が、事業創出に至る割合45% |
PwC、2025年公表 | 新規事業に取り組んでいると回答した、売上高10億円以上の国内企業。案件の進捗についての単一回答、n=1,030。報告書全体の回答企業数1,032とは異なる | 各企業の最も進んだ案件を基に、投資回収を達成した段階以降へ到達した企業が21%、主力事業化へ到達した企業が9% |
パーソル総合研究所、2021年実査・2022年公表 | 従業員300名以上の企業で新規事業開発を専任・兼務する担当者1,800人 | 自社の新規事業開発が「非常に/どちらかというと成功している」という評価を集計した値が30.6% |
21%は「新規事業案件のうち21%が成功する」ではない
PwCの図は、各企業の最も事業ステップが進んだ案件を対象に、どの段階まで到達しているかを集計しています。その企業で検討した全案件を分母にした、案件単位の成功確率ではありません。
たとえば、複数案のうち一つが投資回収に届いた企業と、一案だけで届いた企業を、この数字だけでは区別できません。自社で10案出せば約2案が回収できる、といった計算には使わないでください。
30.6%は、黒字化や投資回収を共通基準で測った数字ではない
パーソル調査は担当者による成功度の評価です。自社単独とオープンイノベーション型を別々に尋ね、両方を行う企業では成功度の平均を算出しています。
投資回収を基準とするPwCの21%とは、設問も集計も異なります。近い数字が見つかっても平均して「一般的な成功率」を作ったり、違う年の値を並べて改善・悪化を判断したりはできません。
到達率の差から、失敗の場所や原因までは決められない
段階ごとの数値が低くなることと、途中で失敗したことは同じではありません。まだ成長の途中なのか、撤退したのか、観測期間が足りないのかを区別する必要があります。
また、リリースから黒字化までに時間がかかる事業と、早期に売上が立つ事業でも条件は違います。到達率だけを見て「立ち上げ後の検証が原因」「人材を置けば成功率が上がる」とは決められません。
パーソル調査では、担当者が感じる組織マネジメント上の課題として、人材確保や知識・ノウハウ不足などが挙がっています。これは社内で確認する論点の候補です。自社の失敗理由や、施策を行った場合の改善幅が確定した結果としては扱いません。
社内の企画書では、成功率より「今回進む条件」を具体化する
調査の数字は、新規事業が立ち上げだけで終わらないことを共有する材料になります。その先の承認には、自社の案について、まだ分からないことと次に得る証拠が必要です。
次は、保守サービスの新規案を検討する想定例です。
企画書の書き方 | 次の判断ができる書き方 |
|---|---|
成功率は約3割なので、複数案に投資する | 今回は「既存の代替手段では解決できず、有償で試す条件があるか」を確認する。誰のどの業務か、提示条件と反応を残す |
まず発売を目標にする | 発売の判断と、その後の収支を分ける。販売後は売上だけでなく、提供原価・継続利用・追加対応の負担を確認する |
黒字化しなければ失敗とする | 今回の観測期間と費用の範囲を決める。継続・修正・保留・中止を、確認結果と追加負担で判断する |
今回の予算は、次の確認までに必要な作業・外部支出・担当・期限を一緒に決めます。その結果を誰が見て、何が分かれば次へ進むかも合意します。今回の試行を承認したことと、その後の追加投資を承認することは分けておきましょう。
まずは企画書の「成功率○%」の隣に、定義・対象・時点を書き足してみましょう。その数字で答えられない問いが見えたら、そこを自社の次の検証へ変えられます。