AIで資料作成や情報収集が速くなったと感じていても、新規事業への手応えがないなら、次の投資判断の前に、社内の効率化と事業づくりの成果を分けて見ます。そのうえで、利用・支払い・継続など、次の検証で確かめたい「外向きの成果」を1つ決めます。作る速さに加え、事業の前提をどこまで確かめられたかを見るためです。
公的機関などの調査では、AIやDXの成果として、売上や顧客価値より社内の効率化が多く挙がっています。
この記事では、その数字の読み方と、次に何を確認すれば「続ける・変える・止める」を判断できるかを整理します。
AIの導入状況と、成果の届き先を分けて見る
IPA「DX動向2026」は、2026年4月中旬〜6月中旬に日本企業の経営層またはICT関連部門を調査し、1,799社から有効回答を得ています。AIを「導入している」は42.3%、「試験利用している」は15.7%で、合計58.0%でした。
導入・試験利用している企業のうち、効果が「期待以上」「期待どおり」は合計31.8%、「一定の効果はあった」は50.6%です。ただし、効果があることと、新規事業の成果が出ていることは分けて読む必要があります。
総務省「令和7年版 情報通信白書」の2024年度調査でも、日本では生成AIの活用による影響として「業務効率化・人員不足の解消」が最多でした。米国・ドイツ・中国は、ビジネス拡大や新たな顧客獲得、イノベーションを多く挙げる傾向があります。
調査から見える3つの論点 — 指標・収益の仕組み・人とルール
調査に表れた課題を、自社で確認する観点に置き直してみます。以下は新規事業が止まる原因を断定する分類ではなく、判断材料の不足を探すための整理です。
外向きの成果を測る指標があるか
IPAによると、DXの成果指標を設定している企業は4社に1社未満です。設定企業での指標の対象は「社内の効率化」80.0%に対し、「新たなビジネスや顧客価値の創出」33.5%、「デジタル事業売上高・市場シェア等」16.3%でした。
成果指標を設定している企業は、設定していない企業よりDX投資の効果が出ていると答えた割合が10ポイント程度高いものの、これは相関であって因果ではありません。指標を置けば成果が生まれるとまではいえません。
ここから考えられるのは、社内の時間短縮だけを測っていると、利用者や顧客に起きた変化を判断材料にしにくいということです。自社の報告資料に、利用者の行動や顧客の購入判断を示す記録があるか確かめてください。
誰が何に対価を払い、どう提供を続けるか
同じIPA調査では、企業間データ連携の課題として「費用対効果が見込めない・不明確」が38.4%、「ビジネスモデルや収益化の仕組みが描けない」が31.8%でした。これは企業間データ連携についての回答であり、AI新規事業全体の課題率として扱うことはできません。ここでは、技術やデータを事業につなぐ際に「費用対効果」と「収益化」が確認事項になる例として見ます。
自社で確認したいのは、使える技術やデータの先に、購入する相手と対価の対象があるかです。利用者が便利だと感じること、導入担当者が採用を決めること、顧客が支払うことを分けて整理します。提供側の確認・修正・サポートに必要な負担も、収益の仮説に含めましょう。
検証を担う人と、判断するルールがあるか
野村総合研究所の2025年調査は、国内売上高上位約3,000社のCIO・IT担当役員などを対象に、517社が回答しています。生成AI活用の課題では「リテラシーやスキルの不足」が70.3%でした。IPAでも、AIの導入・運用上の課題に「専門人材の不足」50.1%、「利用のルールや基準を作るのが難しい」39.7%が挙がっています。
また、帝国データバンクの「イノベーション活動に対する企業の意識調査(2025年)」も、妨げになった要因として「能力のある従業員の不足」37.5%を挙げています。AIに限らない調査ですが、事業づくりを担う体制を点検する材料になります。
社員や現場の担当者がAIを使えるかに加え、誰が利用者へ確認し、誰が結果を記録し、誰が次の投資を決めるかを書き出します。個人で進める場合も、作る作業と検証する作業を分け、それぞれの時間を確保するところから始められます。
次の投資判断の前に、外向きの指標を1つ決める
効率化の成果は、その成果として残します。そのうえで新規事業については、まだ確かめていない重要な前提から指標を選びます。早い段階から売上だけを追う必要はありません。今の検証で観察でき、結果によって次の行動が変わるものを選びましょう。
- 使われる価値を確かめる — 想定した場面で、利用者が目的の行動を完了したか。
- 購入の判断を確かめる — 価格と提供条件を示した後、申込みや支払いまで進んだか。
- 継続の理由を確かめる — 次に必要な機会が来たとき、再び利用・購入したか。
指標には、誰を対象に、どの期間の、何の記録で確認するかを添えます。割合を使うなら、対象となる人数や企業数の範囲も決めてください。試す機会がなかった人と、機会があっても使わなかった人を一緒にすると、結果の意味が変わります。
PROTOCOREの実践 — 感想と購入を分ける
ここまでの調査で見えた「外向きの成果をどう確かめるか」を、PROTOCOREの実践に置き換えてみます。
UX PENGUINでは、正式版の前にチームプランを先行販売しました。価格・契約条件・正式版への移り方を先に決め、請求書払いで先行受注を取り、先行顧客の要望をリリースの判断に反映しています。
一方、日本酒選び支援のWebツールでは、AIを使って短期間で企画から検証まで進めたものの、利用者の「便利そう」という反応と、お金を払う意思は一致しませんでした。
これらの実践から押さえたいのは、好意的な感想、購入の意思、実際の受注は、別の判断材料だということです。先行受注があっても、その先の継続や採算まで確認できたとは限りません。どこまで分かったかを明確にし、次の検証を選びます。
判断表 — 何が分かれば、続ける・変える・止めるかを決める
対象とする企画について、次の項目を埋めてみてください。確認済みの事実と未確認の仮説を分け、不足している項目には確認する相手と方法を添えます。
- 測っている指標 — 社内の効率化について分かったことと、外向きに確かめる行動を分けて書く。
- 行動の根拠 — 利用者の利用記録、導入担当者の判断、顧客の申込み・支払いのうち、何を確認できたかを書く。
- 収益の仮説 — 誰が何に支払い、その条件で提供を続けられるか。未確認の価格や提供負担を残す。
- 判断条件 — いつ、誰が、どの結果で続ける・変える・止めるを決めるかを書く。
判断条件は、次の整理をもとに、自社で観察できる行動と結果に置き換えます。
- 続ける — 今回確かめると決めた行動が確認でき、提供上の問題も許容できるなら、次に残る仮説の検証へ進む。
- 変える — 課題は確認できたが、利用方法・価格・提供範囲が合っていないなら、食い違った条件を変えて試す。
- 止める — 想定した課題の優先度が低い、または約束した条件で提供を続けられないと分かったなら、現在の案への追加投資を止めて見直す。
記録がないことや、対象者に会えなかったことは、需要がない証拠にはなりません。未確認なら、確認方法と期限を見直します。次の予算申請には、これまでの効率化の実績と、これから確かめる外向きの指標、その結果で選ぶ行動を並べましょう。
指標を事業の段階に合わせて整理したい場合は、関連記事「新規事業のKPI設計 — 立ち上げ期に追うべきは売上ではなく「学習速度」」も参考になります。