「初年度予算5,000万円を確保しました」— 一見恵まれたスタートに見えて、これは新規事業にとって危険な状態です。大きな予算は使い切る力学を生みます。検証で雲行きが怪しくなっても、予算と体制がある以上は止まれない。かくして「やめられない事業」が生まれます。
大企業780社の調査では、新規事業テーマのうち立ち上げに至るのは45%、単年黒字化は17%、中核事業化は4%(アビームコンサルティング・2018)。大半のテーマは途中で形を変えるか止まります。予算は「全テーマが成功する前提」で組んではいけません。
段階投資 — 検証の通過ごとに次の予算を解錠する
代替案は、ベンチャー投資と同じ考え方の段階投資です。①課題検証(〜100万円規模:インタビュー・リサーチ)、②価値検証(〜500万円規模:プロトタイプ・有料トライアル)、③事業検証(〜数千万円規模:MVP・初期販売)— 各段階に「次に進む条件」を数字で決め、条件を満たしたときだけ次の予算が解錠される設計です。判断基準の作り方は撤退基準の決め方と対になります。
経営層への通し方 — 「総額の約束」ではなく「ルールの約束」
段階投資の稟議は、総額の承認ではなくルールの承認として通します。「3年で1億円ください」ではなく「①に300万円ください。通過条件はこの3つ。満たしたら②の稟議を持ってきます」。経営層にとっては損失の上限が明確になり、担当者にとっては小さく速く始められる。双方にとって合理的な取引です。
刻むのは金額だけではない — 体制も刻む
段階投資は人にも適用します。①の段階で専任5人のチームは要りません。担当1人+協力者で始め、②で専任化、③で増員 — 検証の進捗と体制を連動させることで、「大所帯になったから止められない」を構造的に防げます。少人数で始める実務は専任ゼロの体制づくりをご覧ください。
生成AIの活用で①②のコストは年々下がっています。数百万円かかったリサーチとプロトタイプが数十万円で済む今、段階投資の入口はかつてなく低くなっています。
出典:アビームコンサルティング「大企業の新規事業実態調査」(2018・780社)。